韓国戒厳令騒ぎの「滅亡と絶望」【佐藤健志】
佐藤健志の「令和の真相」53
◆過去回帰失敗のカラクリ
もはや、お分かりでしょう。
韓国の戒厳令騒ぎは、自国、ないし自分の政権の現状に絶望したユン大統領(国民に謝罪したときも「(非常戒厳布告の)決定は、大統領としての私の切迫した思いから出たもの」などと語っています)が、かつての維新体制に回帰することで、反政府勢力を滅亡させようとした試みだったのです。
プーチン同様、ユン・ソンニョルも「冷戦終結後の時代の推移に裏切られた(北朝鮮に宥和的な傾向が強まったので)」という思いを抱えていたのに違いない。
だがユン大統領の「滅亡と絶望」は、プーチンよりずっとお粗末。
冷戦期のロシア(ソ連)は、社会主義諸国の盟主として地域覇権を確立していたのです。
自由主義諸国を圧倒、世界の覇者たらんという野望まであった。
回帰しようという発想も、相応の魅力を持つでしょう。
ひきかえ維新体制期の韓国はどうか。
今と比べてずっと貧しく、国際的地位も低い!
おまけに国民の自由まで多々制限されていた。
このころ同国には夜間通行禁止令があり、違反者は拘束のうえ罰金を取られたのです。
誰がそんな過去に回帰したいんですかね?
実際、今回の経緯を見ると、ユン大統領、および戒厳布告を進言したとされるキム・ヨンヒョン(金龍顕)前国防相あたりを除けば、みんな真面目にやっていなかった感が強い。
布告の二日前、軍幹部が段取りを打ち合わせた場所はなんとロッテリア。
現在は戒厳騒ぎの「聖地」と揶揄されているとか。
与党「国民の力」のハン・ドンフン(韓東勲)代表も、大統領の決定を支持するどころか、布告直後より戒厳阻止を主張しました。
国会制圧に向かった陸軍の特殊部隊(最精鋭なのだそうです)にいたっては、議事堂の構造すら把握しておらず、隊長のスマホに入っていた交通ナビのアプリで見当をつけるありさま。
いざ突入してみると、建物が予想より大きかったせいで右往左往するハメに陥ります。
騒ぎの翌週、12月9日に記者会見を行った隊長は「戦闘でこのような無能な命令を下していたら、全員死亡していたでしょう」と涙ぐんでいました。
あまりにひとりよがりというか、メチャクチャな現実認識に基づいて行動したせいで、現状をぶち壊すどころか、完全な自滅に終わったのです。
ただし、笑って片付けるわけにはゆかない問題がある。
ユン・ソンニョルは最大野党「共に民主党」を「反国家勢力」と断定、弾劾にも堂々と立ち向かうと述べましたが・・・
ならば「共に民主党」を支持する国民も反国家勢力なのか?
ついでに、弾劾に賛成する国民にも立ち向かうつもりか。
韓国ギャラップが12月13日に発表した世論調査では、じつに75%の国民が賛成を表明しているのですぞ。
自国民の4分の3を敵視するようでは、「自由な韓国を守る」も何もあったものではない。
そうです。
映画『滅亡と絶望』でも、異次元に送り込まれた二人の兵士が仲違いのあげく殺し合いますが、「原状回復のための現状破壊」の試みは、社会の分断を激化させるのです。
続きは次回、お話ししましょう。
文:佐藤健志